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宇宙劇場へ、ようこそ。

エピソード2:世界で一番美しい水のプール

プロローグ

世界でいちばん美しい水の巨大なプールは、実は、宇宙の秘密の物語を上映してくれる、巨大な水の劇場。
さぁ、どんな物語が始まっているのか…

時は1994年まで遡る。

スーパーカミオカンデの誕生

[巨大な空洞]

1994年岐阜県神岡町茂住鉱山坑内、地下に1,000万立方メートルの空洞が出来上った。高さ41.4m、直径39.3m。超純水を貯めるため空洞の壁を厚いステンレス鋼板で覆っている。内壁には直径50cmの光電子増倍管11,146本が設置されている。

[池の山地下1,000m]

大型水チェレンコフ宇宙素粒子観測施設「スーパーカミオカンデ」の誕生だ。

スーパーカミオカンデは岐阜県神岡町茂住鉱山の地下で池の山頂上から1,000mの地下にある。これは観測の妨げとなる宇宙線を避けるためであり地下1000mでは10万分の1に減衰するためである。建設費は6年計画で104億円。また従来のカミオカンデより観測の障害となるラドンを100分の1以下にするため、実験を繰り返し超純水装置に工夫をこらした。より汚れのない、本当に美しい超純水が必要だからである。その結果、観測精度は大きく向上し1996年4月無事観測を開始することとなった。

磨かれた超純水

[建設当時(1995年)の装置]
[現在は壁の中となっている]

どうして、超純水でないといけないのか…。

ニュートリノから発するチェレンコフ光は非常に微弱な光のため、水中に汚れや不純物があるとそれらがノイズとなり、特注の大型光電子増倍管であっても光を観測することができない。半導体の製造には超純水が使用されるが、そうしたレベルに匹敵するきれいさが必要なのである。

[坑道内の超純水装置]

特にラドンについては特別に低いことが要求される。そのため半導体用超純水技術が応用されている。その数値は当初10mBq/m3で観測を行っていたが、RO装置と膜脱気装置で1mBq/m3になっている。坑道内には下記のようにUF装置、RO装置、ラドン除去装置などが設置されている。

比抵抗 17.5MΩ・cm以上
微粒子 10個/cc以下(0.2μm以上)
100個/cc以下(0.1μm以上)
バクテリア 1個/cc以下
溶存酸素 1ppm以下
ウラン 1mBq/m3以下
ラジウム 1mBq/m3以下
トリウム 0.1mBq/m3以下
ラドン 1mBq/m3以下
[超純水装置]

専門的にはなるけれども、超純水の水質基準は右記のようになっている。

つづく大発見

観測の結果、おどろくべき発見がつづくこととなる。

1998年にはニュートリノに質量があることを発表。大気ニュートリノの研究ではミューニュートリノ振動の発見。2001年には太陽ニュートリノ振動の発見など新しい宇宙の秘密のベールが次々と明かされ驚きのドラマを見せてくれている。

[銀河]

■『超新星ニュートリノ』の観測

夜空の星達も私たちと同じように歳を重ねて死んでいくが、星の種類によっては最期に大爆発をおこすものがある。これを超新星爆発という。この大爆発の時、太陽45億年分のエネルギーの1,000倍もの膨大なエネルギーが一度に放出され、そして、なんとその99%以上は約10秒の間にニュートリノによって運び出される。

超新星爆発が銀河の中心で起こった場合、スーパーカミオカンデでは約8,000個のニュートリノを捕まえられると予想されている。これだけの数のニュートリノを捕まえると、望遠鏡では見ることの出来ない星の中心部の様子を詳しく知ることが出来るという訳だ。

[つくばから神岡へ]

■『人工ニュートリノ(K2K)』の研究

1999年6月、250km離れた茨城県つくば市、高エネルギー加速器研究機構からスーパーカミオカンデにニュートリノを撃ち込んで行う研究、「K2K」実験が開始された。「K2K」という名前は高エネルギー加速器研究機構の「K」、「どこへ」という意味の「to」をもじり「2(two)」、神岡の「K」を組み合わせて名づけられた。

世界で初めて、250kmという長い距離を飛行させた人工ニュートリノを観測したK2K実験は2004年まで行われ、その結果は、大気ニュートリノによって発見された「ニュートリノに重さがある」、という結果が間違いないものであることを裏付けるものとなったのだ。


■『太陽ニュートリノ』の観測

スーパーカミオカンデでは太陽ニュートリノの観測を通して、やはり太陽からやってくるニュートリノは明らかに少なくなっていて、「太陽ニュートリノ問題」を改めて確認した。

2001年6月、スーパーカミオカンデの観測データとカナダのSNO実験の観測データを組み合わせて、太陽ニュートリノが少なくなっているのは地球上で観測するまでの間にニュートリノ振動によってニュートリノの種類が変化してしまったからである、ということが確実になった。スーパーカミオカンデでは太陽ニュートリノを電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ、の全てを観測しており、SNO実験のデータとの観測結果の違いから、太陽で生まれた電子ニュートリノの2/3はミューニュートリノまたはタウニュートリノに変わっていることがわかった。

■『大気ニュートリノ』

1998年6月スーパーカミオカンデでの発見は世界中を沸かせたニュースだった。それは、いままでナゾだらけで、あまり正体が分かっていなかったニュートリノの性質が1つ解明されたからだ。ニュートリノには重さがあったという事実が判明したのである。

[あらゆる方向から]
[飛び込むニュートリノ]

粒子が地球の大気に突入するときに生まれた大気ニュートリノについて調べたところ、上から飛んできたニュートリノと下から飛んできたニュートリノの数を調べると、上からの数は予想通りなのに、下からの数は予想の半分くらいしかないということになった。ニュートリノが飛んでいる間に種類が変わってしまう変化をニュートリノ振動というが、このニュートリノ振動はニュートリノに重さがあることの証拠なのだ。

こうしてスーパーカミオカンデはニュートリノの性質を1つ解明した。ニュートリノは宇宙に大量に存在する素粒子なので、重さがあるかないかは宇宙全体の将来にかかわる大変重要なことといえる。

[増倍菅の取付け]

謎の光電子増倍管破損事故

1996年から研究は順調に推移するかと思われていたが、予想だにしなかった事故が起こった。

2001年11月12日のことだった。光電子増倍管の交換を行い、終了後復旧中に底面の増倍管が爆宿したことで、衝撃波による連鎖反応により、12,000本の内約7,000本が破壊してしまったのであった。

スタッフは事故の検証を行い、残された5,200本の増倍管をアクリルと強化プラスチックでカバーし、増倍管の間隔を広げ、2002年12月に観測を再開した。だが、本数が47%と少なくエネルギー分解能の感度が低下してしまった。

しかし観測ができない訳ではない。

スタッフは残された増倍管を用い様々な研究を行っていった。

宇宙の神秘が開かれる宇宙劇場「スーパーカミオカンデ」

今後、太陽ニュートリノの詳細研究や2009年から始まるT2K実験などの研究には感度が足りないため、2006年にかけて完全再建を行うこととした。そして25億円の費用をかけ、全ての増倍管の取り付けが終了し、超純水の注入を行い、ついに完全復旧した。2006年7月11日のことである。

[超純水を注入しているところと満水になったスーパーカミオカンデ]

今後の観測でまた新たな宇宙の神秘のヴェールがはがされていくだろう。宇宙の進化の謎に迫ろうといういうスーパーカミオカンデは磨き上げられた超純水と、11,146本の増倍管がきらめく荘厳な姿は宇宙の神秘のドラマを映す宇宙劇場だ。完全な状態に戻ったスーパーカミオカンデは、今後長期間にわたり観測データを蓄積し、ニュートリノ振動、陽子崩壊、超新星爆発などの研究が続けられていく。50,000tの超純水で満たされた巨大劇場では今日も宇宙形成のドラマが上映されている…

宇宙誕生のその瞬間、何が起こったのかー。

それを目撃する日も、遠い日の話ではない。

FIN

オルガノ株式会社
安住 記

参考資料:
神岡宇宙素粒子研究施設ウェブサイト
地底から宇宙をさぐる 戸塚洋二著

画像出展:
[1]巨大な空洞:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設ウェブサイト
[6]銀河:NASA
[7]つくばから神岡へ:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設ウェブサイト
[8]X線で撮影した太陽:宇宙航空研究開発機構
[9]あらゆる方向から飛び込むニュートリノ:神岡宇宙素粒子研究施設パンフレット
[10]観測グラフ:神岡宇宙素粒子研究施設パンフレット
[11]増倍菅の取付け:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設ウェブサイト
[13]満水になったスーパーカミオカンデ:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設ウェブサイト



「スーパーカミオカンデ」についてより深くお知りになりたい場合は「スーパーカミオカンデ:ウェブサイト」へ

エピソード1:宇宙とニュートリノと超純水との遭遇

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