プロローグ東京大学の小柴博士は大学卒業後、研究のため滞在していたシカゴで、あることを思いついていた。そのアイデアが、後にどれほど人類にとって大きな発見を生み出すか。 それはまだまだ、先のお話… カミオカンデの誕生その後、研究テーマである物理学の大統一理論が予言する「陽子崩壊」を検証するため、素粒子観測装置を考案することとなった。万物は輪廻転生する。その背景には万物の基本となる陽子と電子は常に変わらずに存在している、という暗黙の前提がある。 一方、万物は輪廻転生の間に少しずつ基本となる陽子と電子が消滅し、遠い未来にこの世の終わりがくるというのが大統一理論である。陽子崩壊の検証のためには非常に透明度の高い水を入れた水槽が必要であった。きれいな水(純水)で観測するため、岐阜県神岡町の神岡鉱山内に3,000トンの水が蓄えられる水槽を建設。 「カミオカンデ」の誕生である。 ニュートリノ偶然の発見1987年2月25日のこと。ペンシルバニア大学の宇宙物理学者から1通のFAXが届いた。 「大マゼラン星雲に超新星が出現した。お前達見えるか?」 地球から16万光年離れたマゼラン星雲で起きた超新星で爆発が起った400年ぶりの超新星爆発だった。そこから放出された素粒子ニュートリノが、カミオカンデで観測できるか?という意味である。ニュートリノとは、宇宙から地球へ毎秒数兆個も飛来する素粒子のこと。どんな物質でも縦横無尽に通り抜けるニュートリノは、毎日私たちの体を上下左右から突き抜けていくにも関わらず、その観測は困難だとされていた。しかしカミオカンデでは通常では観測が困難な太陽ニュートリノの観測もできる体制を整えていたため、研究者たちはデータを調べてみることにした。するとそこには、超新星爆発で生まれたニュートリノがカミオカンデにやってきたデータが観測できたのである。 ― 世界で初めてニュートリノを捕らえた ー それは、世界中が驚く大発見であった。 純水で輝く光ではなぜ、ニュートリノがカミオカンデで観測できるのか… その答えは、カミオカンデを満たす3,000トンの純水にある。 あらゆる物質を通り抜けるニュートリノ。かつて炭坑であった地中1,000メートルにあるカミオカンデには、ニュートリノ以外の物質は辿り着くことができない。そして巨大な純水の水槽に飛来するニュートリノは、そのきれいな純水の中で、稀に水中の電子や陽子にぶつかることがある。するとこの衝突によって生じた陽電子は光の速度を越えて水中を走り、チェレンコフ光という光を発する。光は放射状に広がりカミオカンデの外壁に備えられた直径50センチの光電子増倍管により捕らえることができる。この時水が汚れていると光は光電子増倍管まで届くことができない。不純物を極限まで除去した超純水が必要なのである。 ニュートリノが教えてくれること星の進化論では非常に重い恒星がその最後を迎える時、重力崩壊が起こり星の中心が崩落し衝撃波が発生する。そして物質の温度が急激に上がり数時間で星の表面に達し星を吹き飛ばしてしまう。これが超新星である。その時エネルギーの大半は無数のニュートリノが宇宙へ放出される。このニュートリノを観測すれば星の内部状態を探ることができるというのである。つきつめていけば宇宙誕生の秘密や、宇宙形成の謎の解明に、大きく貢献してくれることになるのである。 ニュートリノの観測は、人類の新たなる智慧のための挑戦でもある。 ノーベル賞受賞「超新星爆発」で発生したニュートリノを世界で初めて捕らえて検出し、宇宙物理学に先駆的貢献をしたとして、小柴博士はノーベル賞を受賞した。もちろんそれで研究が終わることはなく、その後研究は継続され、今度は、質量の無いとされていたニュートリノに質量があることを確認し物理学の常識を覆した。 こうした研究を更に発展させるため、カミオカンデは初期の役割を果たしたとされた。そして、その役割は5万トンの超純水を蓄えた大型水チェレンコフ宇宙素粒子観測施設に引き継いでいくことになる。 その大型観測施設こそ「スーパーカミオカンデ」。 宇宙のドラマを映し出す巨大な水のスクリーンの誕生である。1996年春のことだった。そこから数々の宇宙形成の物語が始まることになるが、それはまた次のエピソードである。 オルガノ株式会社 参考資料: 画像出展:
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